箸休め:キャリブレーション

ここらで少し振り返りながら整理しておきましょう。
似て非なる鐡隼をモチーフに始まった普通の隼プロジェクトです。
低くマウントされたアッパーカウルが、高くなっているはずのスクリーンを打ち消し、それでいてウィンカーホールを全て埋め立てた部分には、これまた極限まで低くセットされたセパレートハンドルに合わせて、大きくナックルのエグリが水平に侵入しています。
50代、60代殺し・・・・いや、なんなら40代も餌食になってしまいそうな凶悪なポジションから発せられるレーシーなオーラに、すっかり脳が焼かれてしまいます。

同じ物を作っても乗れないんじゃ仕方ありません。
どうせ作るなら、そのエッセンスを読み解いて、きちんと形にして世に放ちたい。
そんなことを考えながら、必死に製品化を検討したのがこのスケッチです。
随分と普通になってしまった?作る意味があるのだろうか?いえいえ、インパクトは減ったものの、それだけ自然な再解釈でトータルコーディネートが出来たよって事です。

で、実際に作ってみます。
アッパーのエグリの形や位置、スクリーンの高さや形状は全く変わりました。
シートもオリジナルの物を作ってセットしています。
面影を残すのは、僅かに残っているサイドカウルの一部だけで、そのカウルも加工されています。

ガソリンタンクのラインは、タンクカバーによって変更され、弧を描かずに上方向に、スーっと逃げてゆきます。
ほとんど飛び出していないので、乗車ポジションは変わっていませんが、本来初期型のハヤブサの持っていた「ロングタンク」が強調されることで、かなり印象が変わるパーツです。
私自身、今回作ったパーツの中でも、一番の発明品はこれだと思います。
このパーツの視線誘導によって、シートの下まで伸びている、タンクの下方部分がより目立たなくなると言う副次的効果もあります。

アッパーの話に戻すと、本来鐡隼を真似たいならば、このナックル下端は水平にしたい所です。
しかしそうなると、市販車であるノーマルの隼の配線やステーが丸見えになり不格好ですし、開口部が大きすぎて、これもまたバランスが取れなくなります。
そしてなにより、純正ハンドルはあんなに低い位置に取り付けることが出来ません。

なぜこの形にしたのか?決定打は、タンクとのラインの相関性でした。
何度も書いてますが、バイクカウルのデザインは、空いている空間のデザインです。
そこに意味を持たせることで正立した、この開口部デザインという訳です。

スクリーンの高さも、下げれば下げるほどに格好が良くなるのは当たり前です。
カウルは矢のように鋭くなる代わりに、ライダーには容赦なく風圧が襲い掛かり、実際に乗る際はストレス以外の何者でもありません。
スクリーンを立てたまま、どうやって綺麗なデザインにするか?を考え抜いた結果がこれです。
大きく背を屈めずとも、楽にウィンドプロテクション効果を得ることが出来、ライダーが楽に長距離移動できる形にしてあります。

シートのデザインは凝りに凝ったものになりました。
断崖絶壁のBigWaveラインが好きな私は、またしてもやっております(笑)。
バイクを降りて停車させても、純正品には採用されることの無い、鋭いリバースエッジの造形美が周囲の目を引きます。

このシートはZX-12Rを流用しましたが、実はかなり形状を弄っており、その面影はありません。

オリジナルには無い、サイドパネルの真ん中に新たなエッジを造作し、上側部分を平滑に慣らした後に、下部分はS字カーブを描くよう造形しました。
フロントカウルのボリュームにも負けない、かなりのボリュームですが、それをコークボトルラインで絞ったり開いたりしています。
このようなモックでは分かりずらいですが、メタリック塗装などを施した場合は、とても綺麗にラインが出るので、今から楽しみです。

アッパーカウルはスムーシング加工され、左右のフィンエッジを強調させてあります。
スクリーン周辺はマジカルレーシングさんのスクリーンの様に、一部をカーボン張りとして、小型のヘッドライトを埋め込む予定です。
左右の大きなエアダクトが、まるで鼻の穴の様で、なんともブサかわいいですね。

