デザイナーの本音
MONSTER1200Rの純正フロントフェンダーはかなり独特な形状です。
それを更に改造するのですから、もうカオスです。
取り付け穴がフェンダー本体から飛び出すって・・・ちょっと意味が分かりません。
どんな理由があるのか考えてみたんですが、デザインの面白さだけではないと思います。
この形状、前方への庇が凄く短くて、ほとんど泥除けとして使い物にならないような雰囲気を醸し出していますが、実はそんなことなくて、全然庇の長さは足りています(むしろ後ろ側が決定的に足りません)。
それもそのはず、取り付け穴が本体から後ろに飛び出してしまうぐらい本体が前にオフセットされておるので、おかげでギリギリ長さが足りています。
前方の空気を切り裂くことに全振りし、倒立フロントフォークのチューブを保護する気など全く無いという潔さです。
極限までミニマムにする為、Fフェンダーは最低限の面積に収めたい。
カフェレーサーのミニマムテイストを大事にしたい、デザイナーの強い意志を感じます。
人によって「そもそもマフラーって物が気に入らない」「シートはシングルシートしか認めない」「タンデムステップなんてゴミ」など色々なこだわりがある物ですが、きっとドカティのデザイナーは、Fフェンダーなんて出来ることなら無い方が良いとでも思っているのかもしれません。
イタルテイストを奢る
フロントフェンダーのミニマムデザインにはすっかりヤラレてしまった感がありますが、当然リアだってそれを迎え打たねばなりません。
用意したのは同じMONSTERでも、約30年前の車両の古いリアフェンダー。
タイヤから型取りしたかのように、綺麗な弧を描くデザインで、現代のオートバイの様に直線的で機械的な感じがしなくて〇。
前後で揃う事で、曲面を生かしたクラシックな感じが良く出ます。
出来るだけ綺麗な物を用意しましたが、結局は切った貼ったです。
容赦なくぶった切り、必要な部分は足してゆきます。
ファイバーパテを作って盛り付けながら、ファイバークロスで簡易に固定です。
まずは先にフェンダー本体の延長を済ませておきます。
その間にベースとなる部分をスイングアーム本体から型取りますが、先にアルミテープで本体を保護しておき、離型の準備を済ませます。
コチラも同じく、ファイバーパテを接着剤代わりにガラスクロスを敷いてゆきます。
硬化したらベースを取り外し、バリを取って大まかに成型します。
リアフェンダーとのドッキングを控えていますので、一旦表面をしっかりと荒らしておきます。
フェンダー本体との合体のイメージを掴んでおきます。
必要に応じて削ったりしながら微調整します。
現物合わせはとかく車両が汚れてしまいがちなので、清掃をしながらクリーンな状態をキープします。
試行錯誤の末にドッキングは完了。
角度やタイヤとの隙間も大事なので、何度も何度もやり直しました。
これが実際に本体に取り付けた状態です。
まだベースは削り落としますが、見事に車体にフィットしました。
狙い通り、クラシカルなフェンダーアーチが美しい。
30年以上の時を超え、新/旧MONSTER同士の前後フェンダーが、ヤマハのマシン上で再会です。
趣味で長くバイクカスタムをやってますが、こういう事がたまに起こるので面白い(笑)。
カフェレーサーの薫り
貴重なMH900eのカウルを、無残にも真っ二つにしたり・・・・とやりたい放題ですが、今度はカウル形状を変更します。
MH900eの特徴でもあるアルミベゼルは捨て、ベゼル部分をすべて埋めてしまいます。
削るので、予め埋めた部分を少し高めに土盛りしておきます。
イメージとしては蔵王のお釜のように、陥没したカウルの奥からヘッドライトが睨んでいる感じです。
レンズの上側が少し庇のように張り出し、下側が少し引っ込んでいるような、横から見ると斜めになっているラインを作りだしたいと思います。
クラシカルな中に、ほんの少し”モダン”を混ぜてみようというチャレンジです。
しかし、ここからが大変でした。
ファイバーパテは硬化すると石のように固く、#400のベルトサンダーでは歯が(刃が)立ちません。
私が使っているベルトサンダーはベルト幅が10mmと細く、細かい作業には向いていますが、このように3Dの広い面を一気に均するのには向いて無いので、余計大変です。
普通に考えて、これをフリーハンドで削り切るのはほぼ無理ですが、私はチェーンソーで切り株からトラや龍を削り出す程度のスキルを有していますので簡単です。
すみません・・・・う・・・嘘です。
ポイントとしては、元々あったナックルのプレスラインをストレートに修正して延長しつつ、より強調する為にアッパーラインに高さは残しつつ、アンダーラインではガクンと段落を付けて落とし、ヘッドライトのベゼル上にわざと段差を付けることでデザイン上のアクセントにします。
ノーマルの美しいプレーンな形状をほんの少しづつ弄って、特徴を付け足します。
車輛腰下に当たる前後フェンダーはミニマムなデザインを採用し、その存在感を消す一方、車両腰上に当たるアッパー・タンク・シートは一貫して癖を出し、それぞれを協調させます。
そうやってシンプルなカフェレーサーの文法を守りつつ、しっかりとメリハリを出すことで、車両独特の「塊感」を演出するテクニックです。