課題と向き合う
本気で検討してくれる方々よりの指摘があり、どう考えてもこの大きなラムエアダクトの処理は不可能ではないか?と言う指摘を頂きました。
当方には実車が無いので、休日に実車を見に行きましたが、確かにそれも一理あるかもしれません。
「一理」と言うのは、カウルは確かに大きいが、フレーム自体が実はそんなに言うほど大きく(幅が広く)はないと言う事。
冷静になれば、フロントホイールのリム幅は600だろうが1400だろうが一緒なんです。
それを挟み込むホイールスペーサーがあったとて、たかが知れています。
つまり、トップブリッジ上から見るフォークの距離は、他のバイクとあまり変わりません。
幅がかなり広く見えるのは、普通より物理的に少し長いセパレートハンドルを、更に外側にオフセットしているからであり、これらはアフターパーツに交換してしまえば、元の普通の長さに戻ります。
いくら1400ccだからといって、カウルを外して裸にしてしまえば、他のバイクとそんなに変わりません。
問題はこの幅のあるエンジンや、無邪気にデカすぎる(自由すぎる・・・)ラムエアダクトです。
エンジンの大きさは私にはどうにもできませんが、歴史上、美しい旧車達は常にエンジンを車両のデザインの一部として、積極的に見せてきました。
エンジンを覆い隠すにはカウルがひたすら大きくなってゆく。
大きく広げてしまえば、もうGPZ900Rの面影が無くなってしまう。
この負のスパイラルを打ち切って、ここはひとつ、発想を原点に戻してみることにしました。
発想を転換する
先にも言ったようにダクトがデカい。でももしこれが無かったら?
車幅は、J/K型のZX10Rとそう変わらないんです。
思い切ってダクトを切ってしまおうかとも考えましたが、車幅を解決できるわけではなさそうです。
そして、一度狂ったバランスは、あちこちに問題を起こします。
エアの取り込み口が無くなるのは良いとしても、メーターステーを失う事になるのは減点です。
無造作にフレームを貫通して生えてくる丸い管に、締め付けバンドでジョイントされただけの、虫&雨水対策用の窪みダクト(純正形状でも、常に虫はエアクリーナーまで吸い込まれてゆきます)。
空気の流入量はセンターから分岐することを考えたら、大した空気量では無いのですが、ラムエアとは空気の量ではなく、アクセルONの際に、エアクリーナーBOXが加圧されている状態なのが大事です。
私が作ったGPZのカウルは、オリジナルのGPZの顔をワイドナックルになるように広げたうえで、広げてしまった分を、サイドカウルで思い切り絞っているので、そのエグリを考えたらこのダクトの内側に来てしまいます。
いっそこのダクトを隠すのを辞めてしまったら・・・・
これが現実です。
さて、これはアリかナシか。
原点回帰
カウルの外に飛び出してしまったエアダクトのアリ・ナシは一旦横に置いておき、そもそもオリジナルのGPZ900Rの美しさは、ダイヤモンドフレームの形に沿ったグースネックが素晴らしい。
ハーフカウルにした際には、その細くて美しいキリンの首が、何とも絶妙です。
ラムエアダクトの位置を元に、グースネックをカウルで再現してみます。
再度カウルカバーの形状を見直すことで実現できそうですが、前方部分のタンクカバーと一体化しなくてはいけないので、クレイでの3Dモデリングが必要になってきます。
ダクトの事は一旦忘れ、大きく絞られたアッパーカウルは下方向にはあまり延長せず、丁度ラジエーターの上に乗っかる形でカットしてしまいます。
面倒なラジエーターキャップも、メンテナンスを考えて避けてしまいます。
CGコラージュによると、ダクトはこの位置に飛び出してくるはずです。
この手法を初めて見る人も居るかもしれませんが、昔からT.O.T(テイスト・オブ・ツクバ)を見てきた人にとってはそんなに珍しい物ではない筈です。
ゼファーやZ1Rなどの空冷レーサーたちは、後付けのラムエアシステムを、左右に伸びたダクト剥き出して走り回っていたものです。
そもそも見せる予定の部品では無かった為か、ZX14RやZZR1400のダクトはそっけない物ですが、かえってその方が加工する側としてはやりやすいです。
延長ホースを加工して〇から□へ変更し、そのままメッシュ加工を行いカバーしてしまいます。
このダクトがむき出しになる事で、多少気を遣う事になるのが「角度」です。
重ねてみましたが分かるでしょうか?純正に比べ、僅かに下向きにセットすることで、効率的にエアを取り込むことが出来そうです。
むき出しと言いましたが、実際には分割式のカウルで隠します。
サイドスプリッターと呼ばれる、後付けのパーツにてダクトそのものをカバーします。
旧車テイストなのに、多層レイヤー方式のカウルとは、いかにもNEOクラシックです。
敢えて視覚的に分かるように、ずらして描いてみましたが、その雰囲気が分かるでしょうか。
メリハリの利いたワイドナックルなGPZのカウルの左右に、飛行機や車のGTスポイラーのような、翼端板が付いているという訳です。
人によって好き嫌いはあるかもしれませんが、私はかなり自信があります。
限界突破
さて「進化を恐れるな」と言いながら、もはや最終形態かと思われた上記デザインでしたが、この度の困難を乗り越えて、又未知なる領域へと一歩前進することが出来ました。
今となっては、覆い隠すことに目的を置いた、少々曖昧で自信なさげなサイドカウルのデザイン処理が気になってしまいます。
シートカウルのスリムさとは裏腹に、フロントはボッテリとした感じがあり、太くなりすぎた首周りが、シートとチグハグな事が良く分かります。
実際に作った後で、オーナーと「仕方ないよね」「頑張った」と慰め合う自分が目に浮かびます。
これが製造上の問題を全てクリアしつつ、リファインされたデザインです。
サイドスプリッターと言う思い切ったコンセプトによって、生まれ変わり、10cmは上に上がったであろうサイドカウルは、GPZ本来のグースネックを完全に再現してくれました。
副次的な効果として、エンジンヘッドも見え、より軽快ですっきりした外観を手に入れました。
フロントとリアのボリューム感のバランスも取れており、息をのむような美しさです。
可能な限りフロントとリアのカウルボリュームが絞られた結果、大きくて立派なエンジンがより立派に見えるようになりました。
40年の時を超え、私たちの元へ、あのNinjaが帰ってきます。
Ninjaは175cmぐらいの男性がパッと跨っても、車両が小さく見えないようなホイールベースの長さが必要だと思っています。
そのベースには、元々ロー&ロングなZZR1400やZX14Rがぴったりだと言う事が分かりました。
【温故知新と創意工夫】
Studio Qは”上がりの一台”をオーナー様と共に、オーダーメイドで実現します。
製作依頼はインスタグラムのメッセージから、お気軽にどうぞ。