デザインスタディ再び
外装が落ち着いて、これ以上の大きなアップデートが無いところまで来たので、ここで、先行していたデザインとの比較や修正ポイント、再現性の確認をします。
早速、当初のレンダリングCGと実車を比較分析してゆきます。
最初のレンダリングは1100の丸くて大きいカウルを使って描いている点が大きなポイントです。
似てるけど、実車とは大分雰囲気が違ったのが分かると思います。
その理由は車高が5cmも下がっており、それがレンダリングにも正確に反映されている為です。
さてさて、詳しく見てゆきましょう。
1100は、このアッパーカウルのハイトがある事が特徴です。
かなり高さがあり、スクリーンも立っている為縦に長く、グランドツアラー的な印象です。
そういえば1100のオリジナルは2本出しマフラーでした。
現HAYABUSAのご先祖だと言うのも頷けます。
GSX-R750RKの形状を模したシングルシートカウルは、かなりインパクトがありますが、大きなアッパーカウルに比べると非常に小さく描いています。
これはオリジナルのGSX-R750RKのシートカウルが気持ち大きいと感じた為です。
しかし、大柄な1100のカウルに対して、小さく描きすぎてしまい、今見ると250ccクラスのシートの様に見えてしまいます。
88年当時のオートバイは大きく、長い物ばかりでした。
バイク全体のバランスを取る為に大きく延長したアンダーカウルは、限界まで伸ばして描いています。
この時点では下回りの干渉は考えられていませんが、あまり最低地上高を下げてしまうと、ラダーを使って車載する際に問題となりますし、公道走行のあらゆるシーンを想定すると、攻めたくはない部分です。
再現性を確認する
計画を変更し、若干スクエアな750用のカウルをドナーに進めました。
アッパーカウルのハイトが2cmは下がり、CGよりも潰れて鋭く見えます。
造詣的なことを言えば、ヘッドライトの大きさはともかく、RKにすごく近くなりました。
ナックルのカーブもより鋭角になり、まっすぐに手前へと伸びています。
前はツアラー・後ろはレーサーだったレンダリングCGに対して、一切がレーサーレプリカになる事で、纏まり感が高くなったことが確認できます。
CGのカラーリングを参考に、モックアップ状態の車両にコラージュします。
カウルの取り付け角度が違うため、完全一致しませんが変更点がしっかりと確認できました。
CGに比べ、顔が小顔になる一方でシートは長くなっています。
アンダーカウルの形状は絶妙な弧を描きながら、これまた絶妙な位置まで延長され、まるで純正カウルの様なフォルムです。
実用性を犠牲にせずに見た目を改善したタンクエンドにしたおかげで、当初のデザイン重視だったロングタンクは封印され、車両の印象が変わりました。
サイドカウルのダクト位置や深さが、750と1100でこんなに違うとは、ちょっと意外でした。
ここで大きなポイントは「車高が元に戻った」ことです。
レンダリングCGがー5cmだったのに対して、これは±0となりシートハイが全然違います。
当然、シートレールに対してのマフラー角度も変わり、シートカウルの車体への被りも浅くなってゆきます。
そうした「空いた空間」が更に軽快なリアエンドを演出してくれるわけです。
前回のラストニンジャでも解説しましたが、私がデザインで大切にしているのは、本体の形状だけでなく、パーツごとの隙間・間隔・余白です。
極端に言うと「余白」をデザインしていると言っても過言ではありません。
優れたパーツチョイスや、高いコーディネートレベルを出すには、この「余白をデザインする」ことが最も重要な肝となります。
多少のバランスを調整しながら、まずはベタッと色を乗せてゆきます。
ゼッケンプレートのサイズや大きさ、形はデザインし直しです。
細かい点で言うと、コラージュの際にステッカ―類の大きさや配置を確認しています。
このようにラインに掛かったり、ブリスターの影響を受けそうな場合は、逃げたりすることもあります。
基本的に、ロゴも全て塗装にて作成します。
ステッカーの再配置やサイズ変更を行い、ハイライトを追加して立体感を増してゆきます。
陰影をつけることで、どんどん解像度の高くなって行きます。
ベースとなっている写真の明るさやシャープネスを調整し、外装レイヤーと調子を合わせ、影や反射を精密に入れ込んでリアル化します。
少々頭でっかちだったCGでしたが、実車では、前後のカウルサイズや形状の最適化により、かなり改善していることがハッキリと確認できます。
バランスを取る為のアンダーカウル延長は必要なくなり、適切な長さに戻りました。
一見すると、実際にメーカーから販売されていたかのような自然さです。
だがしかし!完璧に纏まっているが故に、全く「面白み」が在りません。
これをStudioQの作品とは呼ぶには、何かが足りません。
限界を突破する
さて、ここからがようやく仕事です。
リアスタンドから降ろしてしっかりと加重を掛けます。
リアスタンドは大抵のバイクを映えさせますが、降ろしてもかっこいいバイクは本物です。
スズキのブルーラインを更に鋭角に切り取り、ストリート風からワークスレーサー風のグラフィックに変更します。
青の3本線のシグネクチャも入って一気に80年代後期のワークス耐久マシン風です。
MINOLTAのロゴも限界まで大きくし、フェンダーにはOILメーカーのMOTULも参戦です。
タンクのロゴもレーシングなRRへ変更し、一気に気分がアガリます。
黒いゼッケンプレートは、道具としての潔さがありますが、少々地味です。
加えて、ここまで純正風に作ってしまうと、全く目立たなくなってしまいます(笑)。
きっと道の駅に停まっていても「古いのを大事に乗ってるな」程度にしか認識されません。
グラフィックをレーシングにした事に伴い、ゼッケンをRKの様に赤くして、華やかにしてみました。
「お!珍しい。RKだ」と近づいてきたライダーは・・・・・恐らく腰を抜かすでしょう。
「ん?な、なんじゃこりゃああああああ!」ってね。
赤いゼッケンをつけた市販車は、RC30やOW01など「ぶっとんだバイク」にしか付くことは無いので、特別な感じが漂います。
まあ実際にGSX-R750RKも、ホモロゲ―ション様に少数作られた希少車両なので、特別です。
この赤いゼッケンは、きっと道の駅や高速のSAでライダーを強烈に吸い寄せるでしょう。
因みにこの赤いゼッケンの色は・・・・・・あの「赤いガチャピン号」の赤です。
これは1987年式GSX-R750のヨシムラカラー設定の純正色となります。
血のような暗い赤に、ゴールドの細やかなラメが入っている、何ともスペシャルな赤なんです。
こんなところにもGSX-Rの遺伝子を入れ込む訳なんですが、まあ誰にも知られることは無いだろうから、コッソリここに書いておきます。
一見すると無駄な情報かもしれませんが、GSX-R好きには大事なことです(笑)。
カラーシグネクチャは当時のSUZUKIワークスのシンボルでした。
市販車ではRKにのみ採用されています。
サーキットへのあこがれが形になったかのようです。
グリップとレバーの影まで投影し、リアリティを上げてみます。
タンクサイドカバーはカーボンオーバーレイでワンオフ予定です。
本当は、すごく面倒くさいのでやりたいくないんですが、買ってくれる人10人中10人が「イイ」と言っているので・・・・しかたありません(笑)。やります。
フロントフェンダーは、カーボンオーバーレイ加工を施してから、塗装する際に残すと言うギミックを入れます。
アホみたいに手間がかかりますが、まあ・・・これもやります(笑)。
ホワイトパールのフェンダー部分のみを見るとMotoGPマシンかの様なレーシーなカットラインですが、実際はカーボン部分がひさしのように伸びているので、機能性は全く損なわれていません。
MOTULのロゴは、ヨシムラのカスタムマシンには決まり物ですね。
NGKのロゴは近年の物から、当時のイラストタイプの旧タイプの物へと改めます。
カストロールのロゴデザインも当時の書体で、中期のものです。
クランクのブリスターは実はこのために残しました。
この部分でスポンサーロゴが歪んでしまうのが当時風ですので、あえて修正しません。
徹底的に「あの頃」にこだわります。
最終的にはタンクカバーではなく、タンクエンドにしてよかったと思います。
この不格好な”後付け感”こそが、80年代当時の昭和の風景だからです。
RRのロゴはタンクの両サイドに配され、HYPER SPORTSの文字も当時のまま。
きっと今だったらSuper Sportsでしょうが、当時はそんな言葉はありませんでしたので却下。
RRロゴはタンクサイドのみで、本家の様にアッパーカウルのヘッドライト上(オデコ)にも入ると煩いと思います。
なので、スクリーン下は、シンプルにSUZUKIのロゴのみです(絶対そっちの方がイイ)。
”限界突破”した車両は、ある種の「特殊な空気」を纏うことがあります。
構想初期の1100ベースのツアラー的な風貌から、低く・長く、一気にレーシーな雰囲気を強めた車両は、見まごう事なきGSX-R750RKレプリカへと昇華しました。
ベースとなっているGSX-R1000L0は排気量が1000ccであるにも関わらず、本家GSX-R750RKよりも重量が軽い上に、100馬力以上も上回るエンジン(185馬力)を搭載していますが、この怪物は3つの走行モードを電子的に選べた上に、いつだって一発でエンジンがかかるのです。
その上ブレーキ周りをブレンボとサンスターで強化され、軽い鍛造ホイール、超軽量チタンマフラー、垂れ角度0の楽なセパレートハンドル、ビレットレバー、バックステップ・・・・とトータルにカスタムされ、早いバイクを楽に乗ることが可能です。
「温故知新」
StuduiQが掲げ続けるテーマは、ここでも変わる事はないのです。