ZX-10R J/KをNinja化する㊸

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KAWASAKI
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カウルステー作成

カウルステー作成とは、たった一つの正解を求める行為です。
おおよそとか、だいたいとかは無く、正解はたった一つです。
それらを計るのは中々骨の折れる作業であり、人によっては一番嫌なことかもしれません(←嫌い)。
妥協すればした分だけ、作品はちゃんとダメになって行きます。

そしてさらに、アッパーカウルステーはシンプルかつ正確かつ軽量でなくてはいけません。
まずは0.7mmのPP板を使って、現物合わせにてモックを作ります。
これをハサミでバラして、本番ステーを作る際のサイズ確認用の治具にします。
寸法のズレが積み重なると、最後には大きなずれになるので、マジックや鉛筆でおおよその位置は出しつつも、最後はカッターの刃先で傷つけることでケガキ線を入れています。

ステーに使うアルミ板は通常、3mmと5mm厚を使い分けますが、わたし的に5mmを使うときは「よっぽど」な時です。
5mmの軽量さと強固さは最高ですが、一方で加工性は最悪です。
人の手はおろか、機械でもちゃんと曲げられるかどうかギリギリなラインです。
今回はアッパーのサイドを固定する為に、この5mmに手を出します。

サイズが出たら1.5mm厚の強いPP板で再び再現します。
この方がしっかりしていて、直角などが自立して出せます。
この時点で、僅かな角度や長さの微修正を済ませます。
写っているのは一枚ですが、悲しいかな何セットも作っています。

これだ!と言うものが出来たら開いて採寸します(毎回そう思うんだけどなあ・・・)。
5mm厚は強烈な硬さなので、曲げると歪むので、計算したすべての寸法が狂ってゆきます。
曲げれば曲げたで、キッチリ5mmにもなりません。
何mmだか分からない厚みが積み重なって・・・・予測不能な誤差を生み出します。

試行錯誤を繰り返しながらステーを作ります。
このアルミ材は大体一つ1000円位ですが、普通にバンバン失敗します(笑)。
ただでさえ硬いので作るのが大変なのに、精神的にも財布にもショックがデカいです。
5mm厚のアルミ材は、曲げる時の歪みも大きく出ますし、人力ではもう曲がりません。
ちゃんとした機械が必要になります。

はい、これは「高価な試作品(←ゴミ)」の写真です。
角度が気に入らないので、あえなくボツになりました。
こんな、酷く気の滅入るプロトタイピングを繰り返しながら「正解」に詰め寄ってゆきます。

今回はラジエーター取り付けステーと共締めする形でステーを固定しましたが、反対側はさらにひどい事になってます。
まるで知恵の輪の様な形ですが、これもしっかりと「折返し数」によって生じる誤差を計算しながら、制作を進めてゆきます。
穴を開ける位置などは「一発」で決めなければアウトなので、ここでもレーザー墨出し機を活用します。

これが、そうして仕上がった唯一無二のステーの最終版です。
このままではストリップ時の美観を損なうので、機械曲げの際に出来てしまった寄りシワや隆起した部分をしっかりとグラインダーで落とし、更に角丸の処理を行います。
その上でプライマー処理した後に、艶消しブラックで塗装されます。
強固でいて羽の様に軽い、ワンオフアルミカウルステーの出来上がりです。
5mm厚の母材の悪い所を散々書きましたが、それでも使うには訳があります。
それは、厚みがあればこそですが、ネジ穴(タッピング)を切った時に、しっかりとトルクが掛けられることです。
3mm厚だと加工しやすい反面、ネジ穴を切ってもトルクに耐えられません。
力が掛かるのに、支持点数が少ないアッパーカウルには必然だったという訳です。

カウルフィッティング

これまでStudioQは、高精度CGから数々の実車を生み出してきました。
それを実現するには、あらかじめ計算されたパーツ設計と、それを形にする技術、そして最後にそれらを取り付ける、精度の高い作業が必要です。
車輛完成には、PhotoShopと撮影した実車写真の両方を使った、高度な修正が何度も行われています。
よく皆さんに「まるでメーカーが作ったかのよう」と口々におっしゃって頂けるのは光栄なのですが、その裏には、やはり血のにじむような苦労があります。
バイクカスタム終活の意味も込め、今回はここに記録しておきます。

リアスタンドを掛けている状態で、少々分かりずらいかもしれませんが、リアセクションの尻下がりデザインは絶妙に設定できています。
長く、真っ直ぐに延長されつつも、ツンと尻上がらない感じで収まっています(笑)。
新しい筈なのにどこか懐かしい、クラシックな雰囲気を纏います。

このシートのデザインのポイントは、シートの山の頂点が前側にあること。
要するにこれ、現代風にはアレンジされていますが、スリッパの様に見える、カフェレーサーシートをモチーフとしています。

形はこれで完成ですが、フェンダーレスキットがまだ付いてません。
アルミ削り出しのフェンダーレスステーを作成し、それを取り付ける部分を抉って造形し直せばパーフェクトです。
クリアを塗装して磨きを入れる前に、シートエンドの下部分にも、Ninjaロゴをワンポイントでペイントする予定です。
ここから更に手を入れる予定です。

アッパーカウルの位置はバッチリ決まったかに見えますが、これじゃ全然だめです。
ただカウルが車両についているだけではダメで「どの角度から見てもカッコよい」かどうか?時間を掛けて、徹底的に検証します。
ちゃんと左右対称か?角度は良いか?パーツ同士のクリアランスは適切か?このデザインは本当にこれがベストか?改善点は本当にもう無いのか?・・・・・などなど多岐にわたって再検討します。
ただでさえGPZの他車種顔面移植と言う「邪道カスタム」なのです。
オリジナル派などの、そもそも批判的なスタンスを持っている(であろう)大勢の人に対し、もはやこれは正義か?!と考えを改めさせるような「圧倒的な説得力」を持たせる必要があります。

アッパーカウルは、長時間かけて取り付け位置を修正しました。
本当に1mm単位でのやり直しを繰り返しています。
左右のクリアランスを調整し、角度を改めました。
正面から見えると低く顎を引き、ヘッドライト上辺に若干カウルが被り気味になる様に造形し直されたことによって、睨み付けるような面構えになる様に作られたオリジナルカウルは、一見GPZ900R風ではありますが、全く別な物となっています。
オリジナルと比べると分かるのですが、ヘッドライトの開口部が大きく異なっています。

結局、カウルの取り付けは都合4回も修正してしまいました。
その都度カウル側もステー側も修正して、壮大なやり直しが発生しています。
おかげでマスターモデルは、まだ型を取る前だと言うのに・・・・既に穴だらけです💦。
しかし、考えようによってはこのマスターモデルがあればこその修正なのです。
何もない所からは修正はできません。
プロトタイピングとは、壊して作るの繰り返しでのみ、正解にたどり着く方法です。

試行錯誤の上、約3週間かけて、フロントへの完璧な出幅、カウルの折り返しとフレームのラインがピタリと一致する角度への位置出しが実現しました。
深い抉りとワイドナックル。
サイドからはシンプルな折り返しに見えて、実は複雑な造形で魅せるハーフカウル。
フロントステムよりも「前」に出っ張ると言うデザイン上のタブーを犯しながらも、角度を付けることで前傾姿勢に見える様に改善した、獲物を睨み付けるような面構え。
これがこの半年、私が追い求めていた形です。

アンダーカウルは一足お先に塗装工程に突入しました。
長い時間かけて面出しを行った結果、濡れたような塗装面は、まるで鏡の様な平滑さです。
美しく、エッジの効いた唯一無二の形状が、全体のデザインをしっかりとまとめ上げます。

この記事を書いているのは2023年3月22日(水)。
千葉はすっかり春めいてきており、東京では桜の開花も始まったようです。
パーツの塗装工程も少しづつ始まり、いよいよこの車両も完成が近づいてきました。

どこかにも書きましたが、これが私の作る最後のニンジャ作品となる予定です。
完成後は、型も全て破壊して処分し、同じものを再び作れなくします。
思い起こせば、長く、険しくも、学び多き楽しい旅でした。
多くの方々に購入していただくことで、全国各地にバイク仲間も増えました。
人によってはリピートまでして頂き、いまだにお付き合いの続いている方が何人かいらっしゃいます。
車輛制作を通じて雑誌に取材されたり、出来上がったバイクで出かけることで、沢山の人と出会うきっかけにもなったNinjaカスタムには、感謝の念しかありません。

万感の思いを胸に、仕上げに入ります。
どなたか乗りたい方が居れば、喜んでお譲りしますので、ご一報ください。

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