ネオクラシックの世界観
1984年に発売された大人気モデル GPZ900R Ninja。
「GPZ900R以外を忍者とは呼ばない」と言う、熱心な愛好家が居ることでも有名なこの忍者。
あれからそろそろ40年が経とうとしていますが、オーナーは苦労しながら維持しています。
漏れなく私も魅了されたこの忍者ですが、Z1000をベースに何度も作成し、好評をいただきました。
Z1000だけでは飽き足らず、最近はZX-10Rでも作成していました。
今回は、満を持して2010年式 J/K型へと歩みを進めます。
従来のメインシャフトを押し下げたエンジンをバックボーンから吊り下げる様な形だった独自レイアウトを止め、メインシャフトを押し上げた三軸レイアウトをツインスパーで挟むレイアウトになったJ/K型。
SSとして非常にオーソドックスな形になったのは良いのですが、フロントの造形は凝りに凝ったものですので、苦戦が予想されます。
さて、いつものようにCGで全体のイメージをとらえてゆきましょう。
このバイクは、比較的スイングアームが長いので、逆にテールが寸足らず見えますが、テール自体が短い訳じゃなく、スイングアームの方が長いって感じ。
そして、フロントフォークのキャスター角もレーサーにしては寝ており、しっかり前に投げ出されたタイヤが、カウルから結構はみ出してくれています。
これはクラシックなカフェレーサースタイルには重要な骨格で、タンクがそこそこ平らな事も好印象です。
画像をネイキッド化してから、軽くGPZ900Rのカウルを当てがって見ますが、そんなに変でもありません。
この時点でこのぐらい違和感が無い状態だと、非常に楽です(成功する確率が高い)。
カタナの様に、とても狭いストライクゾーンを見極めらずとも、何とかなりそうです。
コンセプトを決める
せっかくのワンオフなのだから、カウルにも一工夫したいところです。
ZX10Rの08年式で試したNinjaカウルを設置すると、違和感はありません。
多少サイドパネルの形状を変えることで対応することが出来そうです。
テールカウルはスイングアームに合わせて、少し長く伸ばすことで、堂々と落ち着いた感じに見える様になりました。
今回はテールの角度を跳ね上げずに、大胆にも寝かせてみました。
車高を少し下げてタンクを無理やり水平にし、シートもその面に合わせる方法もありますが、今回はタンクのラインを生かして山なりなラインを描きます。
ここに、猫背になってバイクにしがみついている、ツナギを来たライダーが加われば、この山なりのラインはピタリと合うはずです。
今回は、90年代も飛び越えて80年代のレーサーレプリカのようなデザインのアプローチですが、近年SuperBike選手権で大暴れしたカワサキレーシングチームの最新のカラーリングを纏ってみました。
形状は80年代レプリカで、カラーリングは最新式。
・・・・・なにがしたいのかよくわからなくなってきました。
原点回帰
コンセプトに迷走しておかしくなってしまったので、ここは「古い物をきちんと再現する」と言うコンセプトにちゃんと戻しましょう。
最新式で良いのは機械面であって、外観はどこか懐かしくあるべきです。
オリジナルのGPZ900Rを大切にレストアしながら、苦労して今日まで乗ってきた熱心なオーナーは、大金をつぎ込んでOHするか?今時のバイクに乗り替えるか?の二択しかなかったと思いますが、メーカーから発売されるバイクには、いまひとつピンとくるものが無いんだと思います。
私はそこに「もう一つの選択肢」を提案したい。
そしてもう一つ。
カワサキ乗り=緑色ならば大喜びと思われがちですが、私はそうは思いません。
カワサキには「仏壇カラー」と言う名作があるからです。
黒に金でお仏壇の様だからそう呼ばれているんでしょうが(笑)、これをそのまま配するのはいかにも安易であり、カウルの形が違うので似合う訳が無いのですが、残念ながら世のメーカーさんやショップさんは、これを忠実に再現しようとして頑張ってしまいます。
私は素人ですが、幼少期から写真やデザインが好きなので、芸術は少し分かるつもりです。
世間では「芸術とは模倣から始まる」と言います。
一方で「創造は破壊から始まる」とも思います。
私のコンセプトは「温故知新」。
古きを訪ね、新しきを知る事、作る事です。
私の目指す「創造」は、仏壇カラーのカラーコードを使いながら、現代SSに上手くフィットさせるためにはどう破壊したらよいかを考える作業です。
私は、以前からNinja30周年を記念した、このZX-10Rのカラーが強く記憶に残っていました。
青味の強い白が、黄色みが減って緑色が強くなった少し暗いライムグリーンに対し、輝いて見えます。
カウルの複雑な造形を乗り越えて、タンクまで鋭く引かれたラインもスピード感があって美しいです。
安易に、赤やゴールドを「足して」しまいたくもなりますが、そうしたとたんに一気にオモチャぽくなってしまう。。。
デザイナーさんの「引き算のデザイン」を感じる逸品だと思いますが、これらのカラーリングは川崎重工業がラインナップしているJET SKI「ULTRA」にも使われていると言うのは、ここだけの話です。
さて、極上の素材が頭の中に2つ揃ったことで料理を始めます。
黒×金に対して、ホワイトで大きく鋭いラインを入れて軽快な感じを演出しつつ
それ以外に色を使わずに、纏めることで高級感を演出します。
シートにも何かしたくなりますが、ここはぐっと我慢です。
懐古主義にならない、ネオクラシックを作り出すには、このような引き算のデザインと、それにちょっとしたエッセンスを加えることが大切だと私は考えています。
実車化へのステップ
いくらCGを書いたとて、逆にそこまでは誰だって出来てしまいます。
Studio_Qはそれを「本当に形にする」のが売りです(笑)。
よく購入者から、周囲に車両を見せて「これ、素人のおっさんが作ったんだよ」と言っても100%信じないそうですが、本当に私が手作りで一人で作ってます。
カウルのデザインから造形、塗装まで全て一貫生産です(笑)。
どうしてこんなことになってしまったのか・・・自分でもよくわからないんですけど💦。
さっそくアッパーカウルをプロトタイピングしていますが、前回作成した2008年式ZX-10RNinja用のカウルをカットして。2017年式以降のアッパーカウルの一部をカットしたものをドッキングしています。
J/K型のスクリーンは不格好なので、あえて今回は最新式のR/S型を用意して贅沢にもカットしています。
スクリーンエンドの折り返しの「ミミ」の部分が何ともクラシックでいい感じです。
ハンドルに対するかぶりも長くなっており、ロケットカウルの方程式にハマっていますので、クラシックに見せるには絶好の形状という訳です。
エアアウトレットのレイアウトも決めて固定してゆきます。
このカウルを固定している純正のエアダクトは、カウル・ミラー・メーター3つのステーを兼ねていると言う「とんでもないもの」ですが、相当の強度と、石の様な重さがあるので、おそらくスーパーエンジニアリングプラスティックで出来ていると思います。
こいつを加工したりワンオフするにはかなり工夫が必要なので、一旦現実逃避して、問題を横に置いておきます。
超えられそうにない問題を乗り越えるには、テンションを上げるしかありません。
そんな時、私は積極的に車両にパーツを取り付け「ニヤニヤ」することにしています。
これによって、難しい問題を乗り越える為のモチベーションを稼ぎます。
Visionの策定
さて、紆余曲折ありましたが、このようなプロトタイピングをCGに再度取り込み、最終的な形状変更や、カウルとタンクなどのラインの繋がりを修正します。
最後の仕上げに保安部品等をすべて書き込んで、完全な実車化のシミュレーションを完了します。
ここまでやって初めて「やるかどうか」を決めます。
このように、作りながら考えるのではなく、完成形がかなりはっきりと決まっていて、初めてコンプリートマシンは作成されて行きます。