GSX-R1000でカタナを作りたい⑧

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ワンオフ
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細部のデザインを煮詰める

めくるめく拘りの世界

分かる人には分かる。わからない人には分からないのが、この細部への拘りです。
人は良く「なんとなく〇〇~」と言いますが、その何となくの部分を因数分解すると、結構様々な要素が詰め込まれている事が多いです。
たまに、それを無自覚にまき散らす人(俗に天才と呼ぶ)が居ます。
そして残念ながら私は凡人なので、それを「計算」で逆に再現しようとしています。
ああ、神様。どうして僕を天才にしてくれなかったんでしょうか。

カバー故の難しさ

タンクカバーと言うパーツは、巷で売られている物も含め実は結構「適当」に作ってあります。
もともとがレース用の機能パーツと言う事もあり、チリが合わなかろうが何だろうが「機能は満たしていますので不良品ではありません」と言うのがメーカー側のスタンスです。
なのでそんなに期待すると痛い目に合うんですが、そんなことになる位ならいっそ自分で作ってしまえ!と言う事で今回は自作しています。
タンクのプレスラインを参考に延長するのが定番ですが、曖昧なプレスラインをシャキッとさせることも可能であり、そこに表現の自由度が、ほんの少し残っているという訳です。
今回は、そんなタンクのプレスラインを少しだけ強調したいと思いますので、曲線をより直線的に引き直して、削ったり盛ったりを繰り返しながら成形しています。

男子たるもの、チン部分は「体に優しく」作りたいものですが、ここを必要以上に丸く作る必要はありません。
結構な塊感を見せつつも、角をほんの少し舐める程度にだけ削って終わりにすることで、市販車にはない独特な雰囲気を醸し出す事を狙います。
始める前に、離型の良いアルミテープでタンクをしっかりと養生し、樹脂が垂れても良いように車体を保護しておきましょう。
油粘土は重いので、出来るだけ薄く付けられるように、先に段ボールで形をある程度作っておきます。
紙粘土などでも非常に軽いものがありますが、FRP樹脂との離型の為にも、ここは「油粘土」でなくてはいけません。

出来上がってしまえばこっちのもんです。
パカっと取り外し、さっそくバリやら何やらをサクサクと切ってゆきます。
切りすぎに注意です。

ある程度ヘラでこそぎ落してから、この後お風呂場でお湯を掛けながら、歯ブラシでゴシゴシすると油粘土は綺麗になります(主成分が油ですからね)。
タンク側はピッタリになっているのは当たり前ですが、表面側はチクチクのトゲトゲです。
しっかりと防塵準備をした後、ささーっと電動ツールで面を出しておきましょう。


あまり知られていませんが、カタナのガソリンタンクは本来このようにとんでもない形です。
この「垂直の崖」と言ってもいいチン部分を何とシートで隠しているんです。
シートによって無理やりマッチさせていますが、おそらくそこには結構な空洞があります。
ハンス・ムートさんが最も苦労したであろう部分がここだと思っているのですが、その滑り台の角度を再現しない訳には行きません。
それだけではなく、サイドのプレスラインの処理も同様に、少しエッジを立たせます。
ガソリンタンクの淡いプレスラインを引き継ぎながら、もう少しだけシャキッとさせましょう。
そうすることで「こうゆう風に見せたい」と言う、作り手側の意思表示をするという狙いもあります。

そろそろ仕上げましょ

タンクカバーを作る際は非常に高い型つくりの精度が求められ、同時に薄く均一にFRP築層が出来ることが必須条件となります。
実はこれ、結構ハードルが高く、直線的な造形物を樹脂でビチャビチャにして「出来ました!」とか言っている人には100%無理な仕事です。
第一層目を#340のガラスマットで貼り込んで、次にガラスクロスでフィニッシュすると言う薄さ。
どうしても割れたりする場合は、テンションが掛かるところがあると言う事で、それは型の形が「間違っている」と言う証拠です。
厚みを修正する方法としてタルクで調整できますが、重くなったり、曲がら無くなるのであまりお勧めできません。
要するに「腕の差」がバレる仕事という訳で上級者向きです。
普通の人は素直に市販品を買ってきて、パテをモリモリ盛りましょう。石みたいに重くなるけど。

スクリーンスタンド

穴はまだ開けませんよっと

特徴的なカタナのパーツと言えば、このスクリーンスタンドですね。
カウルとは別に用意する必要があり、純正は金属ステーですがアフターパーツも色々出ています。
私に言わせれば、取り付け位置や場所、角度によって「大失敗」する可能性がNo.1の超危険パーツですので、こんな大事なところを既製品で済まそうなんて正気ではないと思ってしまいます。
当然自分の好きな位置、角度、長さで作っちゃいます。

ガッツリ補強

実はこのスクリーンスタンド、市販品はとにかく脆くてすぐに割れてしまいます。
恐らく1プライだからそうなんでしょうが、それで1万円以上するなんて冗談にもなりません。
私はそんな思いはしたくない(←過去に経験した)ので、自分で作りますが、力が掛かってしまいそうな部分を”5層張り”にして”石ころ”のように固く作ってやりました(笑)。
これによってカナタへの風圧による力は、また別な場所へと逃げてゆく(伝わって行く)訳ですが、そちらも補強でしないと、今度はそっち(主にアッパー)がヤラレます。ほんと、ヤレヤレです。

独特の製法

スクリーンがスモークの今回はあまり意味を成しませんが、クリアな物に変えた場合などは、このスタンドの姿がスクリーン越しに透けて見えるわけです。
そこで、そうなった場合の面白さを見越して、カーボンを貼り込んでみることしました。
先に黒で塗装しておいた本体に軽く足付けし、その上でノンパラ樹脂を糊代わりにさっとひと塗りしておきます。
そのうえで慎重にカーボンクロスを貼り込み、何度も何度も樹脂を乾燥させながら塗り込んでゆき、ポリ樹脂の硬い層を形成してゆきます。

カーボンオーバーレイは大変!

何度もノンパラで樹脂を塗り重ね、ある程度の樹脂の被膜が出来たなら、最後にインパラの樹脂で閉じてしまいます。
これをやることによって空気が完全に遮断され、硬化も促進されます。
綾織カーボンの目に沿って、樹脂のしみ込み具合(含侵と言います)が変わってくるので、このように硬化しても表面が「ボコボコ」になりますが、これで成功なんです。
この後、下地が出てしまわないように気を付けながら、の#240で慣らしてゆきます。
綺麗に面を出したのち、最後にウレタンクリアで保護してフィニッシュです。
ロングスクリーンの取り付け位置は、少しヘッドライトカバー部分に被る様オフセットする為に、わざとSTDの位置よりも下げたところに穴を開けます。
これはスクリーンが車両に対して、長すぎたり短すぎたりすることの無いように調整した結果です。
横から見たときに、ヘッドライトカバーとつながるような角度に調整しつつ、アッパーカウルとの一体感を持たせる意味でも、ヘッドライトカバー部分にスクリーンのサイド部分が、覆いかぶさるような取り付け位置が理想と判断しました。
正直40cmロングのスクリーンは、車両に対して以上に長いと思うのですが、これによって40cmロングスクリーンは、35cmロングぐらいになり、丁度良いバランスとなるという訳です。

ワンオフの値段


ワンオフ車両の作成は、先にVISIONともなるBigPictureを描いてから、バックキャストで物を作ってゆきます。
細かいこだわりや計算は、そうした設計図に基づいてなされて行くのです。
仮に修正があったとて、このVisionがあれば判断基準がはっきりしているので、決断は容易でありブレる心配はありません。
だからこそ、ワンオフ車両は見事なまでのバランスで見るものを、あらゆる角度から圧倒します。
コツコツ¥と買ってきたパーツを順に取り付けて行き、バイクと同じくらいのカスタム費用を掛けたのに「なんかカッコ悪い」なんてちょっと笑えません。

乱暴に言うと、ワンオフカスタムの価格や納期は一般の3倍で、品質は普通です。
実際の手間暇で計算すると5倍以上は欲しいですが、その対価を払う人が存在しないので、やむを得ずそこにとどめているだけの話です(ドバイの石油王になら10倍で行きます)。
再現性がとても低く、手間ばかりかかり、変更に次ぐ変更で納期も全く読めません。
おまけに予想だにしない問題が次々に起こるので、作っている方としたら最悪です。
故に、クオリティは値段ではなく「作り手のやる気」に依存します。
なので私は、●百万円積まれても「やりません」ですし、時には損してでも「やる」もあります。
基本的に私の言い値で値引きなし+前金払い。追加の工数があればどんどん追加請求します。
※その代わり報告はマメにします(笑)
必ず私は、一度お会いして、気の合った人にだけ作ることにしています。
最低条件として、まずは私がリスペクト出来るレベルでオートバイに造詣が深い人。
それでいて、自己裁量で使える金額が大きい人(個人事業主であることが多い印象)。

熱量を持った人は、たとえ北海道の人でも、沖縄の人でも、たまにスロベキアの人でも(笑)飛行機に乗って、泊りがけで訪ねてきます。

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